パンプスとスニーカー

 実はいまだ、バイト代のことについて、二人の間で話がついていなかった。




 「だから、四角四面に考えずに、今日の手間賃だと思って普通に受け取ってくれればいいだろ?」

 「…手間賃って、むしろ美容院に連れて行ってもらったり、洋服買ってもらったり、綺麗にしてもらって、食事までご馳走になるのにそれって話がうますぎて後が怖いよ」

 「じゃあ、友情からの愛のカンパ?」

 「友情にお金が介在するのはおかしい。気持ちはありがたいけど、兄弟や親子間だってお金が関わると、衝動殺人だの、保険金殺人だのロクなことにならないのは、現実世界の事件でだって証明されてるじゃない」

 「……愛のカンパから殺人事件」




 なまじ『友達』になることから始めただけに、面倒なことになった。


 …普通、ここは「じゃあ、好意はありがたく」って素直に受け取るところだろ。


 しかしそうは思いつつ、武尊はそんなひまりが嫌いじゃない。


 そこがまた、厄介なところでもあった。




 「ふぅ、これはさ。一つの…将来的な問題回避の為の保険でもあるわけ、俺にとっては」
 
 「え?」




 ひまりにしてみれば思いもよらぬことだったのだろう、キョトンとした顔を真っ直ぐに見れない。


 『友情にお金が介在するのはおかしい』と真っ当な感性を持っている人間に言うには、あまりに薄汚れた論理な自覚が武尊にもあったから。




 「俺から友達になろうって言っておいて、矛盾した話だし、失礼な話だけど」

 「うん?」

 
 「それこそ金が絡むと兄弟や親子間だって、とんでもない事件になったり愛憎の元になるっていうのは、俺たち司法に関わる人間は、たとえ学生だってある程度承知してることだよね?」




 ひまりが言い出したことだ。


 もちろん、そこに深い意味などなく、貸し借りをしたくなかっただけの言い訳でしかなかったけれど。




 「北条君に協力してバイト代を貰うかどうかのどこに、その話が絡んでくるの?」

 「だからさ、手間賃やバイト代がピンとこなければ、口止め料だと思って欲しいってことなんだ」