パンプスとスニーカー

 「弁護士目指してる人間の言うことじゃないな」




 に~っこり。


 …やっぱり、この人、悪い人だ。


 そんなことをヒシヒシと感じさせられるような、胡散臭い笑顔。




 「でも、悪いんだけど、これは受け入れてくれない?武藤さんに貢ごうってわけじゃなくって、必要経費?…さっきまでのファッションも、実直な武藤さんらしくて、俺は悪くはないと思う。でもさ、正直、彼氏の家族に初めて会うって感じじゃないかなってね」

 「………」




 それは、そのとおり。


 どうやら、それでも武尊はかなり気を使ってくれたようだ。


 たしかに、洒落っけのないカットソーとジーンズにスニーカー、着古したブルゾンという出で立ちでは、どんな寛容な人たちでも、息子の恋人として歓迎してくれる初対面にはなりそうもない。


 かとって、今のひまりは着の身着のまま。




 「買い物とか、野暮用ってこういうことだったんだ」

 「気を悪くしたなら、申し訳なかったけど。最初に言ったら失礼だと思ったからさ」




 殊勝な言葉のわりに、肩を竦めている武尊の顔まったく悪びれていない。


 ガックリしているひまりに、それでも多少は申し訳なく思ったのだろう。




 「…どうしてもってことなら、まあ、妥協するけど。できたら、俺のメンツも立ててくれるとありがたい。勝手な話ばかりだけどね」