パンプスとスニーカー

 「なにが?」

 「あたし、こんな高いお店のもの、代金払ったりできない」




 たとえ火災保険が降りて生活の目処がついたにせよ、とてもじゃないが元々からして、ひまりは名の知れたブランドショップで買い物できるような身の上ではなかった。


 武尊が戻ってきた店員に気を取られている隙に、ササッとすぐ横のハンガーラックに掛かっている自分の着ている服と同じデザインの服の値札を確認する。


 …1、10、100、1000、10000、1000…げっ。


 思わず、触れただけで破れてしまうくらいんじゃないかというくらいの勢いで、ひまりは慌ててワンピースから手を離した。


 …マ、マジ?




 「む、無理無理、絶対ムリッ!?」

 「だから、武藤さんに払わせる気なんか全然ないって、俺、さっき言ったよね?」

 「いや、そうだけどさ。…って、いやいや、なんかなにげに北条君に丸め込まれちゃってるけど、試着するだけって話だったでしょ!?」

 「…まあ」



 
 ひまり的には本当に試着するつもりだけだった…というか、そもそも試着するつもりさえなかったのだ。


 しかし、ガッツリ買う空気を醸し出していた武尊に店員が張り付き、いつの間にか武尊とその店員の巧みな誘導で、試着せざる得ない状況に追い込まれてしまっていた。


 そうでなくても、ショップで店員に接客されてしまうと、つい買うつもりがなくても買わなくてはいけない気持ちにさせられてしまうことも少なくないひまりだ。


 …だから、なるべく店員さんには見つからないように、いつもはこっそり?買い物してるのにぃ。


 「似合わないようなら、そうなるかな、ってことだから」

 「それって詭弁って言わない?」