パンプスとスニーカー

 「ああ、そこは問題ないかな。たぶん、うちの祖母や姉は武藤さんのこと気に入ると思う」

 「え?」




 ちょうどウェイトレスが通りかかって武尊が口を噤む。


 そのままウェイトレスが通り過ぎるのを待つのかと思ったら、スマートな仕草で片手をあげ、武尊がウェイトレスを呼び止めた。




 「武藤さん、何飲む?」
 
 「え?」

 「もう、コーヒーないじゃん?コーヒー党じゃなくって紅茶党だっけか?紅茶?それともジュースとかにする?」

 「あ~」




 すっかり話に夢中になって、自分のカップの中身が空になっていたことにまったく気がつかなかった。


 …そういえば、また喉が乾いてきたかも。


 しかし、財布の中身を頭に思い浮かべて、しばし悩む。


 なにせ、アパートを焼け出された当初、2万円あった所持金は、いまやそれなりに目減りしていた。


 まだまだ、ひまりのさすらいのジプシー生活は先が長いのだ。