パンプスとスニーカー

 あーだこーだ悩んだものの、たしかに武尊のためにつく嘘がそれほどひどいことのようにはひまりにも思えなかった。


 …いくらなんでも、好きでもない人と結婚とか誰だってイヤだよね。


 それに相手に会わないうちに断れるなら、なおさら相手にとっても誰にとってもいいことなのではないか、傷つく人が出ずにすむことなのではないかと思う。


 迷うところがないわけじゃなかったけれど、振り子の針はたしかに武尊の方へと傾いていた。




 「だったら、バイト代とかはいいよ」

 「いや、それは受け取って?今日だけとは言え、つかなくてもいい嘘をつかせるわけだし、迷惑はかけないつもりだけど、うちの家族に会うことでストレスを感じることにもなるだろうし」

 「……うーん」




 それはないとは言えないだろう。


 大病院の令息であるということは、家族がその恋人に求めるスペックというものも当然高いのだろう。


 ひまりのうちも別に他人に蔑まれる類の家ではなかったが、いかんせん普通に中流家庭だ。




 「おうちの人、あたしが恋人とか言っても、納得できないんじゃないかな?」

 「どうして?」

 「あたしのうちってあたしを見てもらえばわかると思うけど、けっしてお金持ちとかじゃないし、家柄とかそういうのもないごく普通の家庭なんだよ?」