パンプスとスニーカー

 これだけは確かなことだ。




 「普通の見合いでも断りにくいものだとは思うけど、うちの場合、見合いとなったらそれ相応に病院の経営と関わる家の娘が相手ってことになるし、そうなったら経営者の親父や兄貴のメンツもある。最初からしないか、結婚を覚悟するか、その二つしかない」




 そう言われてしまえば、ごく普通の庶民の家の子であるひまりにはよくわからない話だ。


 武尊の真剣な顔から、そういうものだと言われればそうなのか、としか言えない。


 …この平成の今時に、そんな家の子って本当にいるんだぁ。


 それくらいな認識。




 「じゃあ、お見合いしないって…」

 「それも無理。今回、ちょっといろいろ事情が入り組んでてね。祖母や姉たちが、見合いをしないなら、仕送り止めるから、後の学生生活は自力でなんとかしろって言い出しててさ」




 そこで、あっ、とばかりにひまりを見て、困った顔をする。




 「いや…自力で頑張ってる武藤さんみたいな人にこんなこと言うのも、甘えてるって思われるだろうけどさ」




 それにはひまりが首を振る。


 自力ですべてをやるということがどれだけ大変で、また覚悟一つできるような甘いことではないことは、彼女が一番よくわかっていたから。


 覚悟して望んだはずの自分でさえ、この2年間でイヤというほど思い知って、何度田舎の実家に逃げ帰ろうと思ったことか。


 今回の延焼騒ぎでもそうだ。


 ちゃんと実家も、親もいるはずなのに、頼れなかった。


 あるいは意地を捨てれば、今となっては落ち着く頃までは世話になれたかもしれない。


 けれど、ここまで頑張って、あれほどタンカを切った親に頭を下げては、これから先、困ったことがある度に何度でも折れてしまいそうな危機感があったのだ。


 しかし、やらなくていい苦労なら背負う必要はないとも思う。


 何から何まで頑張らなければならない必要はない。


 ひまりだって、できることならあえて苦労したくはなかった。


 ただ苦労を押してでも、叶えたい夢があっただけ。