「……夜になっちゃうけど、本当にいいの?」

 「うん、平気。あたしの方は今日バイトないから、図書室が閉まるまでは大学で勉強してるし、あとは適当に時間潰してる。泊めてもらえるだけ、ありがたいもん」

 「お金、渡しておこうか?」

 「いいって」




 聞き耳を立てているわけではなかったけれど、そんな会話を聞くともなしに聞いて、ふと昨日カフェテリアで小耳に挟んでいたひまりの事情に武尊も思い当たる。


 …家、焼け出されたんだっけか。




 「で?これから実家?」

 「あ?」 




 女たちの方へと注意が向いていて、一瞬、壮太に何を聞かれたのかわからなかった。




 「見合いなんだろ?」

 「ああ。いや、さすがに昨日の今日ってわけじゃないし」




 が、時間の問題ではある。


 祖母や姉たちを納得させられない限り、兄の勧める話に対抗できないだろう。




 「ごめんね、好意は嬉しいんだけど、いくら親しくてもやっぱりお金借りたりするのって、私苦手なんだあ。でもいざとなったら、お願いするかも…………、その時…お願い……も…」

 「……ん、ね」




 美紀たちの声が遠ざかってゆく。


 壮太が武尊の視線を辿って、ひまりの後ろ姿に行き当たり小さく笑った。




 「まさに、武藤さんみたいなタイプだったら、お前んちのばあさまも諸手を挙げて、見合いの話なんてナシにするんだろうけどな」


 …あ!


 閃いた。




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