「一佳さん、大丈夫ですか?」

 「大丈夫よぉ~、こう見えても、私、けっこうお酒強いんだからぁ!先輩に送ってなんてもらわなくても、私一人で大丈夫だってちゃんと言ったのにぃ」

 「そうですね。はい、お水ですよ」

 「ありがとぉ、ひまりちゃ~ん。電話しても電話しても無視して、出迎えに来てもくれない薄情な弟なんかと違って、なんて優しいのぉ」

 「はははは…」




 ひまりは酔っぱらいのクダにも動じることなく、やんわりとあしらいつつテキパキと寝支度をさせている。


 …ハァ~。


 一方、武尊の方はといえば内心青色吐息。


 まあ、ある意味、初めてのひまりを相手に、いきなりこんなソファで‘続行’してしまわなかったのは、幸いなことだったかもしれないが。


 …勘弁してくれよな。


 燻った欲望の名残と失望と、…その他いろんなものがごちゃまぜな状態で、さすがの武尊も複雑な気分だ。




 「今日は環八の方で事故があったらしくて、中々タクシーが捕まらずに困ってたんですが、弟さんが近くに住んでいると聞いてこちらに。俺も明日の早朝から東北の方に出るのでなければ、北条さんの実家まで送るんですが」

 「いえ、さすがにそこまでは」




 とりあえずは、泥酔した姉とその彼女の面倒を見てくれた相手への礼儀を優先する。


 どうやら今夜は武尊にとって、いろいろな意味で眠れない夜になりそうだった。