パンプスとスニーカー

 「そっか、俺はそういうのってあんまり気にしない方なんだけど、ひま的には気兼ねするよね」




 口に出さなくても、武尊はひまりの言いたことを察してくれたらしい。


 あっさり納得して、手繋ぎに変えてくれる。


 ひまりにしてみれば、手繋ぎにしても恥ずかしいには違いないが、譲歩してくれる武尊の気遣いを台無しにしたくはなかった。


 それに、そうしたことさえ思い切ってしまえば、こうやって武尊と二人、手を繋いで歩くことがひどく嬉しく、気持ちが浮き立って…不思議なくらいに心地良い。


 自分でもたかが手繋ぎくらいで…と思う。


 中学生の初恋だって、今時もう少し進んでるだろう。


 それでも、自分とはまるで違う大きく温かな手の感触は、遠い記憶の中の父や兄の手と繋ぐのとも全く違っていて…。


 …凄くドキドキする。


 それなのに、そのドキドキが全然イヤじゃない。




 「ひま?」




 つい繋がれた手に見入ったまま、無言になってしまっていたひまりを武尊が振り返って首を傾げている。




 「もしかして、足、痛い?」

 「えっ?!」

 「…パンプス」

 「あ~」




 デートだから…と、妙に張り切ってしまったのを見透かされてしまったようで、今更ながらに気恥ずかしい。


 基本、時間が合えばひまりの手料理を彼女と一緒に食べる武尊だが、朝食はその日によって相伴できたりできなかったり。


 それでも以前…、彼が実家を出て一人暮らしになってからは、朝食を抜くことがほとんどだったそうだから、その頃に比べれば生活は改善されているらしい。


 ひまりにしても、世話女房よろしく無理やり叩き起こしてまで朝食を取らせるほどお節介ではないので、武尊が起きてこない時には食べるばかりの状態に配膳しておくだけで過剰に干渉しない。


 それをいいことに、彼と顔を合わせる前に登校してしまおうと、一限から出るにしても早すぎるくらいの時間に部屋を出てきてしまっていた。


 遠足前の小学生よろしく早く目が覚めてしまって、あげく…いつもはしないオシャレに励んでしまったそんな自分を武尊に見せるのが恥ずかったから。


 そんなことをしても、けっきょくデートする相手なのだから、意味のない行動ではあったけれど。




 「…もしかして、俺とデートするためにオシャレしてきてくれた?」