パンプスとスニーカー

 「俺がっ、ストーカーだというのかっ!?」




 正義感が強く、検事を目指している松田には無視しえぬとんでもない誹謗中傷だっただろう。


 カッと顔に朱を昇らせ、掴みかかってこようとする松田の手を払って、逆に武尊がその襟首を掴む。


 松田も小柄な方ではないが、日本人離れした体格の武尊からすればいくぶんか背が低く、ぐっと顔を近寄らせて凄んでやれば、上からの威圧する視線に松田もわずかに息を飲んだ。


 一見、優男に見られがちだが、大病院の次男坊で昔から護身術がわりに武道一般を身につけさせられていたし、女の出入りが派手なだけにそれだけの修羅場も踏んでいる。


 あえて殴り合ったりとか、そうしたバイオレンスごとに興味はなかったから、かえって泥臭いと疎んじてそうしたシチュエーションにはならないようにと立ち回ってはいたが、売られた喧嘩に尻尾を巻くのは主義じゃない。


 …女を争って、とか冗談じゃないけどな。


 それだけは苦笑してしまう。


 ひまりを好きになってから、自分らしくない言動の連続だ。


 頭に血が昇ってるらしい松田はともかくとして、武尊の方は至極冷静だった。




 「今までさんざんチャンスがあって、ひまに直接ぶつからないで手をこまねいていたくせに、いざ彼女に男ができたからってしゃしゃり出て来て、今更偉そうなこと言うんじゃねぇよ」

 「!」

 「どうせ、今の‘お友達’ゴッコを壊すのが怖くて黙ってた口だろうが、だったらずっとお友達してろっ。てめーみたない偽善者野郎に、いまさら、何グダグダ言われたって、俺は痛くも痒くもねぇよ」

 「…北条」




 ギリギリと睨みあげてくる根性は大したものだが、フンと鼻でせせら笑って掴んでいた襟首を、突き飛ばすようにして離して背を向ける。




 「俺がひまに本気かどうか、あんたに言うことじゃねぇけどな。ひまが遊べるタイプじゃねぇことくらい俺だって先刻承知だ。本気でもない女の為にそんな面倒ごと背負うほど俺は酔狂じゃねぇし、暇でもない。…人のことにとやかく口出すくらいなら、自分の行動省みて、せいぜいストーカーになんかなるなよな、未来の検事さん?」




 …は、マジ、アホらしい。


 そう思うのに、口調ほどには本気で松田を嘲笑う気になれない。


 歩み去る武尊の背中に、それでも松田の声が追いすがる。




 「その言葉、忘れるなよ、北条!…武藤のこと、適当にしやがったら、絶対に許さねぇっ!」




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