パンプスとスニーカー

 「……否定しないんだな」

 「村尾さんから聞いたんだろ?」

 「むらも武藤から直接聞いたわけじゃなくって、たぶん…って言ったけどな。むらは俺の他には喋ってないし、お前や武藤にもオフレコにしてくれと言っていたから、どこにも回ってないと思う」




 他に誰にも喋っていない事柄を、わざわざ松田に告げる美紀の意図を考える。




 「もちろん、俺も誰にも喋ってない」

 「ふぅん?なるほど。でも、そのたぶんで、ただの友達でなんの関係もないあんたが、血相変えて俺のとこに来たってわけ?」




 意地の悪い言い方である自覚は武尊にもある。


 案の定、松田は今にも武尊を射殺そうとでも言うように目に剣を帯びて睨み、ギュッと拳を握り締めた。




 「武藤は、今までお前が相手にしてきたような女じゃない。…軽い気持ちで遊べるタイプの人間じゃないんだ」

 「…………遊びね」




 言われても仕方がないことだとは、武尊も自分でわかっている。




 「俺やひまがどういうつもりなのかはともかくとして、そう捩じ込んでくるあんたはいったいどういう権限で、俺にひまから手を引けと言ってくるわけ?ガキでもあるまいに、男と女のことだろ?」




 ピクリと癇性に動いた眉間の動きだけで、松田の今の気持ちなど丸分かり。


 …ひまといい、こいつといい。


 こんなことで弁護士だの、検事だの、なれるのかと思いかけて、だからこそ、これまでの自分がひまりや松田のような人間を敬遠していたことに今更ながらに気がついた。


 情に厚く、感情にメリハリがあって、ひたむきな想いを真っ直ぐに表現できる人間。


 …俺には、無理だな。


 おそらくその二人にしても、いざ職務となり客観的な立場に立つ必要がある場面では、それなりに冷静さを纏い、優秀さを発揮するのだろう。


 実際に、ひまりにしても松田にしても、特に感情的な人間ではなかった。




 「あんた、ひまの彼氏じゃないだろ?」




 そうだ、とは言えないはずだ。


 なにせ、その当のひまりと付き合ってるのは、武尊なのだから。


 …言えよ。言っちまえ。


 友達ヅラをして、親切ごかしの相手では引導を渡せない。




 「彼女のことが好きだからだ。たとえ武藤が俺のことをなんと思っていなくても、みすみす誰かに傷つけられるのを黙って見ていられない」