パンプスとスニーカー

 「ひ~、さむぅ~い」




 渡り廊下の柱の間を吹き抜けた東風に、美紀が首を竦めて巻いていたマフラーをぐっと口元に押し当てる。




 「もうそろそろカレンダー的には春だっていうのに、なんでこんなに寒いわけ?」

 「うーん、雪が降ってるところもあるくらいだしねぇ」

 「ハァ…こりゃ、誰も彼もがインフルエンザにもなるわ」

 「ははは」




 インフルエンザはあくまでもウィルスであって、猛威を奮っているのは寒さとは直接関わりがないのだが、美紀がボやきたくなるのもわからないではない。




 「で?どう?武藤ッチって、今日4限まででしょ?その後って、バイト入ってるんだっけ?飲み会無理そうかな」

 「うーん」




 …どうしよう。


 ひまりの付き合いは、普段からあまり良くはない。


 が、たまにであれば、美紀や沢たちと一緒に出かけたり飲み会にも参加することがあるし、単位も十分足りているのだから誘われれば同行するのもやぶさかではなかった。




 「もしかして、お金が厳しい?」

 「いや」




 それもあるにはあるが、




 「えっとね、実は今日は…これで帰ろうかなって」

 「え?」




 思わず美紀が腕時計を確認してみれば、まだ昼前、2限が終わったばかりの時間帯だ。



 「…その、第二外国語の授業は今日レポートの提出があったから、どうしても出たかったんだけどね」


 「うん?」




 ということは、それがなければ一日休むつもりだったということだ。


 そうとして見れば、ほとんど着たきりすずめに近いひまりの格好が、いつもとは違うことに気が付く。


 焼け出されてから購入したというハーフコートを着ているので、中に着ているトップスまではわからないが、いつもはジーンズにスニーカーのボトムも、ふんわりとした女らしいデザインのスカートで、それほどヒールは高くはないが珍しくパンプスを履いていることに美紀も気がついた。