パンプスとスニーカー

 「弱味につけこむつもりじゃないし、もちろん恩に着せるつもりもない」




 それは本当だ。


 だが、情に厚いひまりがそれで絆されるんじゃないか、とか期待することが悪いことだと武尊は思わないし、このまま彼女が彼の部屋を間借りし続ければ、たとえ同居を解消しても、これまでとそう変わりなく接触を持つこともできる。


 …我ながら姑息だけど。


 カッコつけが激しい武尊だが、真剣な恋愛でまでカッコ付けしようとは思わない。


 今まで本当になくしたくないほどに好きになった女がいなかったから、がむしゃらにならなかっただけのこと。




 「俺んとこは、別に実家からでも通える距離なんだからさ」

 「…でも」

 「いくら長引くって言ったって、最悪180日。それまでに、ひまだってそれなりに資金を集めることもできるだろうし、かえってよけいな費用がかからないだけ貯めるのも容易だろ?」




 180日というのは、警察の調査を含めての事案で、そこらへんは法学部の武尊たちの専門分野だと言えなくもない。


 さすがに現役の弁護士ほどには詳しくはないが、いざとなれば知人の伝を頼って相談することもできるし、素人よりは交渉術にも長けているのだから、その最悪そのまんまに唯々諾々と待っているだけのつもりもないかった。


 実際、ひまり自身も何度かアパートの大家や保険会社とは話をしているし、武尊もそれに同行したことがある。


 担当者の態度からして、故意にのんべんだらりと言い逃れをしているというよりも、実際に警察の調査との兼ね合いで長引いているだけのようで、そちらのカタがつけばすぐに処理も行われるだろう手応えがあったから、問題は警察の方なのだろう。


 ひまり的にも武尊の申し出はありがたいはずだし、今の状況ではそれ以外ないだろうが、そうした自分の都合と彼への気兼ね、そして一般常識的遠慮で、彼女が迷っているのは武尊にも手に取るようにわかった。


 …こんなんで、ちゃんと弁護士やれるのかよ。


 とはいえ、こうしてひまりが自分の心情を晒してくれるようになったのも、ここ一ヶ月ほどの同居のおかげだと思う。


 それだけの近しさを築いてきた。


 …俺に馴染んでくれてるってことだよな?


 それが吉と出るか、凶と出るか。




 「それとも、あらたな住まいの敷金礼金…当座の生活資金分くらいは俺でも用意できるから、その資金を貸す方がいい?」




*****