パンプスとスニーカー

 「…それはそうだけど」




 通常、火災保険は30日以内に支払いが行われることを保証されている。


 万が一30日を超えた場合には、さらに遅延利息を上乗せして支払う義務が保険会社にあるから、遅滞なく支払われるのが通常だ。


 またひまりが賃借していたアパートは、古さと賃料のわりに入居時の火災保険への加入がかなり厳格で、けっこう高額な保険への加入を義務とされていたらしい。


 実際、そうでなければいくら原因が隣家からの延焼とはいえ、類焼には補償義務がなかったから、泣き寝入りするしかなかっただろう。


 今回それが幸運だったわけだが、しかし問題は、現在、隣家の火災が事件性=放火の疑いも出てきたとかなんとかで、思わぬほど調査に時間がかかり、保証金の支払いが遅れているのだ。


 …今までは、それをいいことにひまを引き止めてきたけど。




 「ひまは実家も遠方で、…たとえそうじゃなくっても、実家に頼ったりすることってできないだろ?」




 武尊もある程度事情を聞いている。


 と、いうか、武尊の家族との初顔合わせの時にそうした話題も出ていたから、ひまりが実家から仕送り等融通をつけてもらうことができないことも承知していた。




 「それはそうだけど…でも、親族でもない武尊に迷惑かけるくらいだったら…」

 「できないから、今、こうしてるんだよね?」




 念を押せば、返事に困って黙り込んでしまっているのが答えだ。