パンプスとスニーカー

 ひまりの態度がすっかりギクシャクしてしまっているのには、武尊も気がついていた。

 それはそうだろう。


 常識的に考えて、いくら親しくなったからといって、普通の女は恋人でもない男と同居して平然としていられるはずもない。


 それでも‘恋人のフリ’の名のもとに、お互いに一線を守っているうちはまだ良かった。


 …さすがに、誤魔化されてはくれないよな。


 いや、そもそも武尊にしても誤魔化すつもりはなかったけれど。


 正直、いつまでも友達のラインを守っているのにも限界を感じないでもなかったのだ。

 男の機微…あれこれについては、特に女に飢えているわけでもない武尊だったから、まあそれほどガッツいてるつもりはない。


 ふとした拍子に触れる手の温もりや、ひまりの無防備な仕草や表情に、ズクンとした鈍く重いあらぬ欲望を感じないと言ったら嘘になるが、彼女とは刹那的な関係を結ぶつもりはなかった。


 だから、そこはもちろん我慢できる。


 しかし…、時折見え隠れする、松田の存在も気になっていたのだ。


 …今のところ、ひまにはその気はなさそうだけど。


 恋愛なんてタイミングだ。


 ひまりのような奥手な女ほど、ちょっとした弾みで恋愛に発展することもありえる。


 この同居解消をチャンスと捉えるか、それとも誰よりもひまりのそばにいられるせっかくの機会をフイにしたと考えるのか…。




 「実家に帰るって…、そんな、出ていくならあたしの方でしょ。銀行のカードももう送られてくるはずだから、そろそろ…ってあたしもちゃんと考えてたし」




 案の定だ。




 「銀行の方がなんとかなったって、火災保険とか、住むとこの保証とかそっちの話はまだだろ?」