パンプスとスニーカー

 ひまりが彼のことを好きではないのなら、当然、今すぐにでも身の振り方を考えるべきで、なにも悩むことないはずなのだ。


 銀行の手続きの方は既に終わっていて、あとはカードの到着を待つのみ。


 そうすれば、多少の貯金もあるし、なんとかアルバイトの給料日まで食い繋ぐことも可能だろう。


 とはいえ、まだ火災保険の件や火元の部屋主との交渉も終わっていなかった。


 そうとなればあらたな部屋を借りるにしても敷金礼金など、いくらお金があっても足りるものではない。


 つい俯いて、これからの金策に頭を悩ませてしまったひまりに、武尊も彼女が何を思い悩んでいるのか察したらしい。




 「無理強いするつもりはないって言ったろ?」




 いつの間にか辿り着いていた車のドアを開けて、中へ入れと促される。


 シートに腰を下ろすと同時に、ドアまで締めてくれる。


 気が付けば、こうして彼にエスコートされて車に乗ることも自然になってしまっていた。


 すぐにまわってきた運転席に座った武尊が、スムーズな動作で車を発進させる。




 「全部、ひまの火災保険の手続きや、その他もろもろの件が片付いてからにするつもりだったんだ」




 それがどうしてかなんて、もちろん聞かなくてもひまりにだって理解できる。




 「友達になろうとか言っておいて、ごめんね」




 なんと言えばいいのかわからず、武尊が前を向いているのをいいことに彼の横顔を眺め、言葉を探しては言いあぐねてひまりは口を開けては、閉じることを我知らず繰り返した。




 「けど、それとこれとは別。ひま的には突然のことで戸惑ってると思う。でも、言っちゃったものはもう撤回することはできないし、俺もするつもりはないから」

 「…それって」

 「口説くよ」