パンプスとスニーカー

 「…え?」




 さっきから、ひまりのセリフは、え、と、は、ばかりだ。


 実際、普段は明晰な頭脳が完全フリーズしてしまい、今、この状況をどうしていいのかわからないでいた。


 …こ、こんなことで弁護士になんかなれなるの?あたし。


 もっともなような、関係ないような。


 小さく息を吐いて、顔を上げた武尊の顔は明かりの乏しい夜目にも、あきらかに真っ赤で、彼が伊達や酔狂、ましてや彼女をからかおうという意図でそんなことを言い出したのではないことはあきらかだった。




 「俺はひまのことが好きだ。…ひまは?」

 「あ、あたし?」




 唐突にまわってきたお鉢に、ギョッとして、なぜか周囲を見回してしまう。




 「…ぷっ、なに、その反応?」

 「だ、だって…」

 「もちろん、ひまに言ったんだよ、俺は。参ったな…まだ、告白とかする気じゃ、全然なかったのに」

 「武尊」

 「……ぁ…だよ………っち」




 小さなざわめきに視線を向ければ、二人と同じくスーパーからやってくるらしい数人の客の姿が見える。




 「とりあえず、帰ろうか」

 「……うん」




 差し出された手を見て、だが、さすがにその手に手を乗せることなんかできなくて、困って武尊の顔を見上げてしまう。


 武尊の方でもあっさりと引き下がって、ちょっとだけ苦笑している。




 「行こう、こんなところでいつまでも突っ立っててもしょうがないだろ?」

 「そう…だね」




 背を向けた武尊の後ろについて歩き出す。




 「俺、本気だよ」




 さっきのセリフが繰り返される。




 「…………」

 「でも、無理強いするつもりないし…さっきも言ったとおり、本当に今、この状況で告白とかするつもりじゃなかったんだ」

 「……うん」




 この状況…ひまりが武尊のマンションの部屋を間借りしている状況のことを言っているのだろう。


 彼の気遣いは当然のことで、互いに恋愛感情がないからこそ、これまで‘恋人のフリ’などできたのだ。


 恋人でもない男女が一つ屋根の下で暮らしていられた。


 …でも、この場合どうなっちゃうの?