「誰にだって苦手なものはあるよ」

 「…………」

 「だからって別に恥ずかしいことじゃないでしょ?あたしだって、無害だとわかってても小さな虫が怖いし嫌い。血だって得意じゃないよ。…それに、程度の差はあっても男の人で血が苦手な人って珍しくないしね。その程度のことだと思う」

 「…………」

 「たしかにお医者さんのおウチの子の武尊には辛いことだっただろうけど、でも、法律家っていうの、すごく向いてると思うよ?」

 「そうかな?」




 たとえ、それがあからさまな慰めであっても、武尊のジンと冷えた胸の奥に響くものがあるのはなぜなのだろう。


 やっとひまりの方へと顔を向けた武尊へと、ひまりがにっこりと笑う、嘘偽りのない顔で。




 「だって、あたしを見事丸め込んだじゃない?これでもあたし、司法試験現役合格できるって言われてる大学内でも期待の星なんだよ?」

 「そういうのとはちょっと違う気がするけど」

 「え~っ」




 不満そうに口を尖らせたその顔が、ひどく可愛い、そんな風に武尊は思った。


 …完全にやられた。




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