パンプスとスニーカー

 「失礼…って」

 「こんな時間まですっかりお邪魔しちゃったけど」




 困った顔は本当に申し訳なさそうだ。




 「と、いうか、むしろ無理に引き止めたのはうちのばあちゃんや姉貴だし」

 「ばあちゃん、とか言うんだ」

 「は?」




 思わぬところを突っ込まれる。




 「おばあさま、とかいかにもセレブなお宅の子って感じの呼び方してたから、本当に違う世界の人っているんだなぁ、とか思ってたんだけど」




 本当にそう思ってるらしく、その顔に皮肉なものは欠片も含まれていない。


 武尊にとって、人前とオンオフ切り替えるのはいまや普通のことだったが、他人から見れば奇異なことなのだろう。




 「ん~、言うほど大した家ってわけでもないけどね。しょせん、じいさんの代で起こした病院経営がそこそこ大きくなったってだけだし。まあ、呼び方はちょっと気取ってるかもしれないかな」

 「気取ってるとは思わないけど、男の子とかって子供の頃、そういうのからかうものね。うちの弟たちも小さい時は、お姉ちゃんって言ってくれてたけど、今は呼び捨てにしたりやっぱり姉貴って呼んだりしてるかな」




 もう一人の姉はともかく、一佳とは8才も年が離れているし、そもそも呼び捨てにしようものなら後が怖いのでそんなマネをしたことがないが、世間一般でもそんなものなのかもしれない。


 化粧っけもないせいか、ひまりは外見的には年齢よりも若く見えがちだが、こうして話してみると別に子供っぽいわけではなかった。


 …この子も、姉、か。そういえば。




 「じゃあ…」

 「あのさ」




 何がどうと意識したわけではなかった。


 だから、きっと衝動だったのだろう。


 …意外にこの子といる時間は悪くなかったから。


 たぶん、そんな些細な理由の延長だったのだ。


 ひまりの別れの挨拶を遮って、武尊がこんな提案をしてしまったのは。




 「一姉が言ってた同居の話」

 「え?」




 まさに鳩が豆鉄砲くらったような、というか、きょと~んと見上げてくるひまりの髪をクシャクシャッとかきまぜる。




 「困ってるんだろ?生活の目処がたつまで、半月?一ヶ月?…それくらいなら俺のところに来なよ」




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