パンプスとスニーカー

 こんな姉でもおそらく恋人の前では可愛いところもあるのだろうが。


 ぎゃあぎゃあ喚いている一佳を放置して、顔でも洗うかと武尊が部屋の出口へと向かった。


 …そういえば、武藤さんどうしてるんだろう?


 今日は休日ではない。


 普通に授業もあるが、この短い期間に知り得たひまりの性格からして、まさか家主の武尊に何の断りもなく出かけたということもないだろう。


 それに、たしか祖母が昼食を一緒にとかなんとか言っていた気がする。


 と、ドアを開けたとたん懐かしい匂いが。




 「あら、起きたのね」

 「あ、おはよう」




 部屋を出てすぐ、ダイニングキッチンのカウンターの向こうから、エプロン姿の祖母となぜかひまりがキッチンに立っている。




 「…何してるんですか?」

 「何してるって、こんな時間に起きてきて、まだ寝ぼけているの?お昼ご飯を作ってるに決まってるでしょ?まったく、久しぶりに来てみれば、相変わらず冷蔵庫には何も入っていないし、キッチンを使ってる形跡もないじゃないの。本当に、どんな生活をしているのかありありとわかりますよ」




 祖母のお小言に、一言もない。




 「どうせ、いつもは朝ご飯もロクに食べていないのでしょ?あら、やだ」




 それでも長々と小言を言われる前に、吹き上げた鍋に気を取られた祖母の気がそれてホッと息をついていたところへ、横で困ったようにしていたひまりに声をかけられる。




 「もうすぐお昼ご飯だから、顔洗って来たら?」

 「わかった」




 そうとしか、言うことはなかった。




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