パンプスとスニーカー

 「わかりました」




 指示通りにタクシーがマンションエントランスの前に停車して、なんとか無理矢理に姉の体を押しのけ、乱れてしまった髪を軽く整えつつ会計を済ませてタクシーから降車する。




 「一佳さん、大丈夫ですか?」

 「平気~、平気~。ん~、いい気分」




 千鳥足の一佳を左右で支えて、なんとか玄関へ。




 「武藤さん、いいよ。俺が支えるから」

 「あ、ちょっと靴ズレして足が痛いんで。こうやって一佳さんを支えつつ、あたしも寄りかからせてもらってた方が楽かな?」

 「そ?」




 なんとはなしに視線をひまりの足へと流す。


 ほっそりとした膝に巻いた包帯は痛々しいが、こちらの方は本当に大したことはなかったらしく特に歩くのに支障はなさそうだ。


 だが、やはり履き慣れないパンプスはひまりには荷が勝ちすぎたのか、どことなく足を引き摺っているようにも見える。




 「悪かったな」

 「え?」

 「…いや」

 「あ~ん、もう眠~い」




 半ば武尊にのしかかるようにして、項垂れていた一佳が唸り声を上げた。




 「たく、これでも普段、名医然として取り澄ました顔で患者の治療なんかしてる医者かよ。俺が患者だったら、怖くて治療なんて任せらんないな」

 「しょうがないよ、それだけストレスがかかるお仕事ってことでしょ?たまのオフに、気のおけない家族と気晴らしする時くらい息を抜いたってバチが当たるはずがないもの。そんなこと言わないであげなよ」

 「ん~、優しい~、ひまりちゃん。もう今すぐうちのお嫁にきちゃって、私の義妹になっちゃいなさい!」