次の自由登校日。
私がまた違う本に読みふけっていると、先生が教卓で1つ咳払いをする。
「卒業までお前たちももう1ヶ月を切ったところだが、転校生だ。かなりの遠方から来たので卒業式を以前在籍していた学校ではなく本校で出席したいと申出があった。東直人だ、ちょっとだがなかよくしてやってくれ。」
そういうと彼はペコッとお辞儀をした。
私は相変わらず本に夢中で見もしなかった。
「咲子、なぁ咲子!」
内緒話のようなボリュームで、でも確実に私を呼ぶ声。
「はい…。」
私の隣を指定された転校生が声をかけてくれたようだが、いきなり呼び捨てとは馴れ馴れしい。
私が眉をひそめてメガネをきちんとかけ直すと、まぁ整った顔立ちの青年。
「はい、じゃねーよ。俺!」
誰よ、と返そうとして少しの間。
「まさか、ネロ!?」
「しーっ、今は直人!」
と言いながらネロはニタニタ笑うから気持ちが悪い。
メイクもなくて、顔色も真っ白からほんのりピンクに良くなり、声も透き通り、瞳に生気の戻ったネロは、すぐには気づけなかった。
「温かいものに触れてしまったからピエロの世界、追い出されちゃってさ。」
と、先輩や偉い位置にいるピエロにひどい仕打ちを受けたと話す割には終始照れ隠しをするように嬉しそうだった。
帰り道、ずっとネロは私のあとをついてくる。
あの日みたいに。
「ネロ、ストーカーみたいだからやめてよね。」
そう言うと拗ねたネロはまるでほんの小さな子どものようで。
「ねぇ、咲子、俺のこと嫌い?ピエロだったから嫌い?直人とは呼んでくれない?」
と涙声。
恥ずかしいから泣かないでと繋いだ手は、あの日と違って温かくて。
私たちの不思議な恋が始まった。
いつか、直人が本物の愛を見つけられるように。