「ただ…いま。」

まだ、リビングは光がある。

そっと、ドアを開けた。

「あんたこんな時間までどこに行ってたの?」

お母さんは呆れてる。

蓮琉も椎名も。

お姉ちゃんやお父さんも。

「別に。そこのコンビニ。」

「はぁ、なんなの本当。凛々花を困らせないで。」

「ごめんなさい。」

怒りも泣きも出来ない。

もう、どうしていいのかわからない。

「蓮琉くんごめんねぇ。この子のせいで。歩くんもごめんなさいね。」

お母さんは笑いながらいつもと変わらない。

「お父さん…。ちょっといい?」

「え?あぁ。」









「ねぇ、お父さん。お母さんにちゃんと会いに行った?」


お父さんは黙ったまま。

「あぁ。」

ねぇ、どうして嘘つくの?

なんで会いに行ってあげないの?

ねぇ、どうして?

「嘘。お母さんに会いに行ってなんかない。お父さんのいつもの花なかったよ…?」

「……。」

「ねぇ、どうして嘘つくの?ねぇ!どうして?お母さんだけ攻められなきゃいけないの?
お母さんを守れなかったのはお父さんじゃない。なのに…なの…に。お母さんだけ攻めるなんて卑怯。最っ低。」

「姫乃…。お母さんの事は忘れよう。お前にだって今の家庭があるじゃないか。お母さんの事は…。」

「は?今なんて言った?忘れよう?ふざけるのもいい加減にしてよ。そんなに忘れたい?
なら、お父さんだけ忘れれば?勝手なこと言わないで!わたしのお母さんは1人だけ。これから先もずっと。わたしもうすぐこの家出ていくから。安心して暮らせば?」

それだけいい、お父さんの話なんてきかずに

部屋にはいった。

もう、わたしの居場所なんてどこにもない。

いや、元からなかったんだ。





トントン。

わたしの部屋を叩く音。

「はい。」

「姫乃?入るぞ?」


この声……。


「蓮琉…。」









「姫乃…。大丈夫?」



そんな優しい言葉なんてわたしには

かけちゃいけない。

「うん。大丈夫だから。蓮琉はお姉ちゃんについてあげてよ。」

笑って見せたいが、うまく笑えない。

「姫乃…。お前も辛かったな。凛々花よりずっと…。姫乃の方が辛かったよな。」

ねぇ、蓮琉?

わたしは同情がほしいわけじゃないよ。

でもね、今までお母さん以外でわたしの味方なんていなかったから。

蓮琉ありがとう。

「ううん。お姉ちゃんに比べたら全然。わたしなんて辛くない。わたしが辛いなんていえる立場じゃないよ…。」

「そんなことない。姫乃はよく頑張った。愛人の子供だからっていじめられても、どんな事があっても笑ってた。」

「うん。それでもお姉ちゃんは自分のお父さんの愛人の子供と一緒に暮らしてるんだよ?
お姉ちゃんのほうがよほど辛いよね。
わたし何もわかってなかった。わたしが全部悪い。お母さんは何も悪くない。お母さんは…わたしがいなかったら幸せだった。どうしてわたしは生まれてきたんだろう…。」

「姫乃…。凛々花は辛いよ。凛々花はお前と仲良くしたかったんだ。」

「そんなことない!お姉ちゃんはわたしが憎いよ。嫌いだよ。」

「姫乃!凛々花はそんなヤツじゃない。
本当にお前と仲良くしたかった。でも、お前は誰も受け入れることをしなかった。それが凛々花は悲しかったんだ。」

お姉ちゃん…。

「受け入れるなんて出来ないよ。わたしは愛人の子供。一生そうやって生きていかなきゃいけないの。」

「お前だけが辛いんじゃないんだ。凛々花はお前の倍に苦しんでた。それだけはわかってやれよ。お前のこと好きなんだよ凛々花は。」

なんなのよ。


「なに?お説教?もう辞めて。お姉ちゃんが好きなのはわかる。でも、わたしだって
ずっと軽蔑されて辛かった…。どうやったら
好かれるのかだって考えてた。わたしだって本当は辛かった…。」

「やっと本音が出た。」

「え?」

「姫乃は本音で喋らない。いつも、そうだね。って納得して自分の気持ちを言わないだろ。
自分の気持ちがあるなら、少しくらい言ってほしい。姫乃の力になれるように頑張るから。」

蓮琉はいつだって優しい。

こんな私を見捨てない。

それが蓮琉らしいのかもしれない。

「ありがとう。蓮琉のおかげて、心が決まりそう。」

わたしはもうすぐこの家を出ていこう。

もう少し…は終わりだ。

もう、これ以上誰にも迷惑なんてかけたくない。
ひっそり、ただ誰もいない所で頑張ろう。

「なぁ、姫乃。タイミング悪いかもしれない。でも、今言いたい。少し聞いてくれるか?」

「ん?」



























「俺さ…姫乃が好きなんだ。」