「…………」



「…あれ?藍里ちゃん?」









こいつの好きな人がどうとか関係ないはずなのに



その子のことを話す侑李の愛おしそうな表情を見た瞬間

胸が張り裂けそうになった。









「どうしたの?あ、手痛かった?」




「……る」




「ん?」




「帰る。」






スルッと隣を通り過ぎると、ふわりと侑李の香水の香りがした。


こんなときに匂わせるなんて、ずるい。






「ちょ、まってよ。なんで?」




慌ててついて来るそいつを全力で無視して、ずんずん歩く。


ここからはバスに乗るより歩いたほうが早く帰れる。






「俺なんかした?
なんでいつも藍里ちゃん苛つかせちゃうのかな。」




「…ちがうわよ」




あんたに苛ついてるんじゃない。





「え?なに?」




「なんでもない。ついてこないで。ストーカー」





「ストッ……!?」





侑李がショックを受けて立ち止まった隙にダッと駆け出した。





後ろから呼び止める声が聞こえたけど、聞こえないふりをした。










あんたに苛ついてるんじゃない。

たぶん、あんたにそんな顔をさせるその子に苛ついてる。






それはきっと


あいつを好きになってしまったからなんだろう。