それは確か、どんより空の春の日だった。










「わー!遅刻しちゃう!いってきまーす!」



「藍里(あいり)!お弁当忘れてるわよ!」




玄関で靴を履いてドアノブに手をかけてから、キッチンのテーブルに置きっぱなしだったお弁当の存在に気づく。



慌てて振り向くと、もうすでにお母さんが持ってきてくれていた。

さすが!なんて言ってる暇、今はない。







お弁当を受け取り、行ってきます!ともう一度叫ぶと

お母さんのため息を背中で受け止めて、玄関のドアを勢い良く閉めた。



建てつけ悪いから!イライラしてたんじゃないよ!

と心の中で言い訳を言いつつも、反省の気持ちなんて今のあたしには持てる余裕がなかった。


こんなバッタバタではありますが…

あたし、吉宮 藍里は今日から高校二年生になります!





新学期が楽しみすぎて寝る間を惜しみ、友達の瑠花(るか)とずっと通話をしていたせいなのか。

それともただ単に眠れなかっただけなのか。




見事にアラームをしっかり止めて二度寝してしまったあたし。いつもよりかなり遅めのお目覚めだった。



この時間じゃいつものバスもう行っちゃってるよ!





「はぁっ…はぁ……も、もっと早くに起こしてくれてもっ、いいじゃない…っ!」