「ついにこの日がくるとは」

ため息を少しついて白く長いひげを触った

「本来なら天国界にきて儀式を行い、この世界で過ごしてもらうはずだった。
だが、君たちの場合、生きてるのに目を覚ますことが出来ずどちらの世界に行っていいかわからないまま宙に浮いてさまよっていた。ずっとこれが続くとどちらの世界にも行けず、消えて無くなってしまう。
わしは2人を引き取ることに決めた
ここで過ごし、人間界を救って欲しいと思った」

どんどん鼓動がはやくなった

「…なぜ記憶を消しているかわかるかい?」

首を横にふった

「もし、記憶があるままこちらで過ごしていたら、死んでしまったことに憎しみ戻りたいと思う意志がどんどん強くなってしまう。場合によっては事件を起こしかねない。過去にそのような事があった
だからわしはそれらを防ぐ為、安らかに過ごしてもらう為、人間界にいた頃の記憶を消し、この世界で過ごしてもらっていた」

主様が少し悲しそうに微笑んだ

「君たちは本当に優しい。依頼でもないのに迷子の子を助け、老人の荷物が重そうと思えば荷物を少しでも軽くしようと行動し、捨て猫いれば紙に書いて飼い主を探し、いつも誰かを助けていた。まるでわしの娘を見ているようだった」

「え?娘さん、いらっしゃったんですか?」

「生きていた頃の話じゃ。主になると少しだけ記憶が蘇る。娘は優しく、おとなしい子でな。なんとなく2人に親近感を感じた。このまま2人がここにいることを望んだ」

「なら戻せる可能性もあるんすよね」

「なくはない。だが、2人共ここにいる時間も長く莫大なエネルギーを使う。わし1人で2人をあちらの世界に戻す事は出来ないのだ。人間界に行くのならこの世界を守る為にも記憶を消さなければならない。逆にこちらに残っても記憶を消しこの世界をやり直してもらう。これは掟じゃ。千年以上も守られてきた伝統を壊すわけにはできん。」

2人で戻る事が出来ない。残っても戻っても記憶が無くなってしまう。2人の思い出が消えてしまう。

「俺はいい。こいつを元の世界に戻して欲しい」

「何言ってるの!?記憶全部消えちゃうんだよ!?私との思い出も!海の事も!
天と一緒にいたいよ」


「お前は戻りたいんだろ!?自分の世界に!何今更ためらってるんだよ!」

初めてだった。こんなに乱れた天を見たのは。

「ずっと見てきた。お前が話を聞くたびに戻りたいと気持ちが強くなってるのはわかってた。俺は戻りたいより、こいつを元の世界に戻してやりたいって意志が俺の中でも強くなった。だから、お前は戻れ」

真っ直ぐ陽が見てきた。