運命を紡ぐ、淡い歌




遥か彼方の想いを乗せて



泡沫のように、切なく甘い




静かな日常を乱す歯車




高校生になった春、私は不思議な出会いを経験する。




まるで惹かれ合うことが必然であった様に



流れる雲の行方さえ、決められていたかの様に


彼は、私の名を呼んだ。




それは入学式から1週間が経ち、部活動の勧誘も盛んに行われていた、涼しげな春の日の事だった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇



大きな窓から流れ込む太陽の光を受けながら、コードを伝い耳へと届く音楽を、静かに聴く。



人気の無い静かなこの空間が好きで、私はいつも少しだけ早起きをして、朝の教室でこうして音楽を聴いていた。



このSHR前の僅かな時間が、何気無い至福のひと時。





何となく視線を感じて目を開けると、ななせと目が合う。


ななせはこの学校に入学してから初めて友達になった、気の合う友人。




本当に今時の女子高生って感じの女の子で、見てて微笑ましい。


微笑ましいけど同時に、いい奴すぎて逆に不安になる。



「琴葉、なんか呼ばれてるよ〜」


微かに聞こえた声を拾おうと、イヤホンを外す。


「ん?ごめん。よく聞こえなかった」


「だーからぁ、男の子に呼ばれてるよって!!」



「…え?」



少し声量の上がったななせの声に惚けた返事をして、教室のドアの方を見る。


そこには確かに男の子がいて、何も言わずに此方を見つめていた。




…なんだろう、あんな人、初めて見るけど



「……誰?」



「知らないよ。ネクタイの色が赤いから、多分2年生だと思うけど…。待たせるのも悪いし、一応行ってみたら?」



「わっ、と…」



ななせの声と共に無理やり押し出された身体を摩りながら、一歩を踏み出す。



休み時間に、ななせと私を見に来る上級生や同級生は、何人か居た。



ななせは可愛いし、私も別にブスでは無いだろうし、でも少しサバサバした性格の私たち2人は、良い意味でも、悪い意味でもクラスで少し目立っていた。



また、そういう系かな。



面倒だな、なんて思いながらも、ななせに押された手間、行かないわけにもいかなかった。