「和樹……。
貴方が頭を下げるのはおかしいわ。
私の事を想って、して来てくれた事に、私がずっと気付かなかった。
それは和樹のせいではないわ。
私が鈍感すぎたの。
ごめんなさいね、本当に。

私がこれからどうやって恋とか愛とかをすればいいのか、
許しを乞われるより、そっちを教えて欲しいわ。
何もわからないんですもの。

そのね、先代と直樹さんの約束の事だけれど…。

和樹は一人っ子でしょう?
若い人をお嫁さんにもらえばまだ花村が途絶えることはないわよね?

北條路のお婿さんになって貰っても、本家は私で終わりなの。
家にとっては意味のない約束になってしまったわ。
和樹にも家族を増やしてあげられないのよ私」


「お言葉ですが、お嬢様。
私は花村のために跡継ぎを残すことは少しも考えておりませんし父もそうでございます。
北條路家の今後は、たくさんある分家からいくらでも成り立っていくでしょう。

お嬢様にはご自身の幸せをお考えになっていただきたく……そうですね、
その為にまずその『どうやって恋とか愛とかをすればいいのか』を、
じっくりお教えして差上げればよろしいのでございますね?」


「ええ、ええそうね。
でも私だけでは嫌よ?
私だけの幸せではなくて、和樹にも幸せになって貰わなくちゃ」


「では……私を北條路の婿に、お嬢様の夫にしていただきたく存じます。

執事としては、残りの生涯をかけて貴女をお守りしお仕えすると誓います。
さらに、夫婦になって二人で幸せになると誓います。

ですからどうか私の妻として、ずっと一緒に生きて行くと、
そうおっしゃって頂けると、私も幸せに存じます」


「………わかったわ。
何度も言っているんだけれど、今度は意味が違うわね、
私は和樹がいないと生きていけないの。
ずっと一緒にいてね。

先代の約束とはだいぶ内容が違うようだけど、
これからでも夫婦の幸せを感じられるとしたら、
和樹と一緒がいいわ。

あとね、和樹に任せておいたら、私が大切にされるばかりな気がするの。
だから、私にちゃんと和樹の愛しかたを教えてちょうだいね?」


「……はい……はい、かしこまりました、お嬢様。愛しています」


和樹の胸に包み込まれて顔を上げた私に、彼は生まれて初めて本物のキスをしてくれた。

お休みのキスのような軽さはどこにもなくて、恋人同士の……長年連れ添った夫婦の、心と心を通わせるような、
それはそれは深い愛情に満ちた『口付け』だった…。