「大人バージョンは……お気に召しませんか?」


「いいえ、嫌ではないわ。
でも、また…。これなのよ、和樹。
こういう風に、締め付けられるような苦しい感じが、ゆうべも…」


「これから、私が何度もそういう感じを起こさせて差し上げます。
もっと早く…本当ならば30年ほど前にお教えしなければなりませんでした。

お嬢様……私はその頃からずっと、貴女をお慕いしております。

お嬢様のその心に起こっている感じは、恋愛感情でございます」


「まあ!……そう、なの?
嫌だわ私ったら……なんて奥手なのかしら……。

何も…わかっていなかったのね…。
和樹の気持ちにも…自分の気持ちにも…気付かずにいたのね。
こんなに近くにいるのに、なんて鈍感なのかしら。

……ごめんなさい和樹。
私、今さら恋をしてしまっているのね…。
でも、もう遅すぎるわよね」


「畏れながら…これから、ということでも、決して遅くはないと存じます」


「こんなおばさんになってから?」


「恋には年齢は関係ございません。
それに、お嬢様は少しもおばさんではございません。
私にとってお嬢様のお心は、いつまでも可愛らしい少女のままでございます。
お姿も、お歳を召すに従ってどんどん魅力的な女性になっていらっしゃいます」


「そんな……恥ずかしいことを言わないで……」


「今まで私がそのような想いを色々申し上げずに来たばかりに、こんなに遅れてしまいましたゆえ、
これからはたくさん申し上げなければなりません。
今までは立場を守りすぎていたのでございます」


「そう……さっきのご夫婦がおっしゃっていたものね、私達には信頼関係もあるわ。
ほとんど私が信じて頼ってばかりだけれど。
私は和樹がいなければ生きていけないの。ずっと一緒にいて欲しいのよ…」


「もう、数えきれないほど申し上げておりますが、
私は一生お嬢様のお側でお仕えして参ります。
でも、これからは執事としてだけではありません。

その…昨日の、あの…父の話もございますし、
…そうそう、そろそろ夕食を頼みましょう。

そのあとでまたゆっくりお話を聞いていただきたく存じます」


「そうね、そうだわ。
直樹さんとのお話を聞かせてくれるのね。
それにお腹も空いてきたわね」


和樹は、言いづらいことがあるのよね。
挙動不審になったり言葉に詰まる時は、何かがあるときだもの……。