「田凪紫陽花さん…ですね?」


「…え?」



いつもと同じように下校していたある日。

ちょうど住宅街に入ったときだった。

名前を呼ばれて振り向くと、うちの高校の制服を着た男の人だった。


「ちょっと来てくれない?」


…は?

私はポカーンとした。

名前を呼ばれました、はいっ一緒に来て?

無理に決まってるでしょ!?バカじゃないの!?

例えうちの高校の生徒だとしても無理!!


「いや、あなたのこと知りませんので。
さようなら」


そういって私はクルッとその男の人に背を向け何事もなかったように歩いた。


「え!?待ってよ!少しぐらい話聞いてくれたって…」

「じゃあ、始めから説明してください。
いきなり来てと言われても怪しい人としか思えません」


アタフタして言う男の人に対して、私はズバッと返した。

男の人はウ″ッという感じで一歩身を引いた。

そして、パッと背筋を伸ばし前で腕を組んだ。


「いや、だからね?
田凪紫陽花さん、あなたに俺は…いや、斗真が用事があるんだ。
だから、一緒に来てくれ」


と、斗真…?

誰それ…?

また、ポカーンとした。

その私の様子を見て男の人は、ハァ…とため息をついた。


「とにかく、一緒に来てくれればいいんだ」

「いや、それは無理です」


また私は即答した。

だから、用事が何か知りたいんだって!

あ、や、し、い、男の人!!

その私の返事を聞いて、あ″あぁぁぁぁ…と大きな声で叫んだ。

私は、ビクッとして身を引いた。

そしてパッとこちらを見て…


パンッと私のうでを掴んだ。


「え!?」


私は、必死に振りほどこうとした。

…が、力が強くて振りほどけない。



「もぉ…こうしたくなかったんだよっ!?
でも、お前が言うこと聞かないからな!?」