君についた10のウソ

『そのクッキーって、なにか特別なものだったか?』


「とく、べつ……」



そうだよ、なんて口が裂けても言えるわけがない。



『なぁ、教えてくれよ……』



優にこのクッキーを初めてあげたのは中学三年生の………2月14日。


言えるはずがないでしょ……


付き合って初めてのバレンタインデーにあげたクッキーだなんて。

“好き”という気持ちがつまったクッキーだなんて。



「……特別なものじゃないよ」


『そっか……』



本当のことを言えたらどれだけいいか。

ウソをつかなくて済んだならどけだけいいことか。


ごめんね優。



「なんでそんなこと聞くの…?」


『食べたときに心がうずいたんだよ。頭で覚えてなくても心で覚えてるって感じで、なんかこの味知ってるって…』



どうして優はこんなにも。


あたしの喜ぶことを言うのだろう。



『家に帰ってから考えてたらな、ボヤッと思い出すっていうか、思い出してはないんだけど……また、愛しいなって…』


「ごめん……もう寝るから、切るね」



このままだと泣いてしまう。


泣いていると気づかれてしまう。



『……時間とって悪かったな。じゃ、おやすみ』



ツーツーツーと通話が切れた音が鳴り続ける。


反対に、あたしの目からは静かに涙が流れる。