「春香?」


廊下から聞こえた声に立ち上がって、ドアに凭[もた]れかかる幼馴染みの元へ向かう。


「なにしてたの?」


他の生徒に混じって二人で並んで歩くと、不思議そうな顔をしてダークブラウンの髪をゆらす。


「春のこと考えてた」

「俺? ……近藤になんか言われた?」


眉間に皺を寄せて怪訝そうに春は言う。


「明日は雨だって」


体育館の入り口で「意味が分からねえ」と呟く春に、私は振り返って笑顔で言った。


「じゃ、またね」


春を置き去りに自分のクラス席へ座る。

壇上では忙しそうに動く昴。

また校長の話とか長いんだろうな。

そんなことを考えながら、ぼーっと昴を見続けていると一瞬目があった気がした。

すぐ逸らされたから、恐らく気のせいだろうけど。

そのうち教頭の嗄[しわが]れた声を合図に、三年生になって迎える初めての始業式が始まった。