「おはよう」


開けっ放しの教室のドアに滑り込みながら大きな声で言う。

なんとか間に合ったみたい。

クラスメイトの挨拶に答えながら、窓際の後ろから二番目の席へ腰を下ろしほっと息を吐[つ]く。


「初日からギリギリとか春の所為?」


私の前の席ーー黒髪に黒縁眼鏡、所謂優等生っぽく見える男の子。

まあ優等生なんだけど……友達の秋川昴[あきかわすばる]が振り返って聞いてくる。


「うん、春の所為。起こしてもなかなか起きないんだもん」

「よく間に合ったね」

「チャリ乗ってきたから」

「それ、違反だよ?」


眼鏡をくいっと上げながら、鋭い目つきで見てくる昴。

その目はまさに学校に君臨するトップの如[ごと]く。

そんな怖い目しないでよ。


「……生徒会長様、どうかお許しを」


手を顔の前で合わせて懇願のポーズをとってみる。

私は悪くないもん。

呆れたように溜め息を一つ溢[こぼ]すと彼は困ったように笑った。


「僕もつくづく甘いなあ。次はないからね。春香もさ、春に付き合ってないで一人で来なよ」

「それはだめ。春が遅刻常習犯になっちゃう」


春はお寝坊さんだもの。

私が起こしに行かなきゃきっと毎日遅刻だよ。