ーー鹿条町[かじょうまち]。

周りは田んぼと畑という田舎。

電車は一時間に一本あればいいほう。

若者なんて数少ない。

でも大自然が最高にいいところ。

観光名所は鹿条温泉。

腰痛、肩凝り、打ち身、切り傷、擦り傷など幅広く効果のある温泉。

旅館が立ち並ぶ温泉街は夜になると提灯をモチーフにした街灯が辺りを照らす。

雑誌やテレビで特集が組まれるほどの有名温泉。

でも一番は、縁結びの神様で有名な“春日神木神社[かすがのかみきじんじゃ]”。

鹿春日大尊[かかすがたいそん]という神様が祀[まつ]られていて、縁結びの神様として有名だけど学業でも名が知れている。

その神社には言い伝えられている逢引の話がある。



昔々、勉学に励み親を大切にする心優しい一人の男性がいた。

名を春日という。

ある日、春日は一目惚れをした。

天津乙女[あまつおとめ]なのではないかと謳[うた]われるような美女に一目惚れしたのだ。

二人は自然と惹かれ合いやがて恋人になった。

周りが見ても幸せに溢れているほど二人は愛し合っていた。

しかし、幸せは無惨な形で終わりを告げる。

天界から迎えが来たのだ。

彼女、桜子は天女だった。

掟を破り人間に恋をした桜子は天界へ連れ去られ、その後一度も下界に降りてくることはなかった。

春日はずっと彼女を想い続け、天女である彼女のために神社を建てた。

それが“春日神木神社”。

敷地内の端に一本の桜の木がある。

それは彼女を想う春日の気持ち。