神木の下で会いましょう

「千夏、春ちゃん! 置いてくよー」


私と彼女の間に漂う空気が一段と冷たさを帯びた瞬間、場違いな声が響いた。

楽しげな掛け声に、千夏ちゃんはくるっ回転すると、手を大きく振って答える。


「いまいくー! ね、春ちゃん行こう」


一瞬で雰囲気を変えた彼女は私の腕を取って歩き出す。

あまりにも突然のことに反応が遅れて足が縺[もつ]れそうになりながら彼女の隣に並ぶと、


「普通に接して」


顔は笑って、でも目は笑ってない、そして明るく言う姿が目に入った。


「それと、今の話は秘密にしてね」


妖艶な笑みを浮かべる彼女にまた体が震えた。



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「飲み物買いに行ってくるね」


そう言って部屋を出たのは、トランプ大会が始まって30分が経った頃。

騒がしい音のする部屋の扉に背を預けて佇むこと数分。

私の頭の中は千夏ちゃんのことで一杯だった。

正直、トランプ大会に参加する気力すらなかったけど、千夏ちゃんに言われた一言が体を動かす原動力だったと思う。

その限界が来たのがついさっき。

普通に接することがこんなにも疲れることだとは思わなかった。