神木の下で会いましょう

暫くして戻ってきた梗と勉強を再開する。

夕食の時間までまだまだ。

目の前の梗は一言も話さずに集中している。

やっぱり教えてなんて言っておきながら、教えることなんて一つもないじゃない。

正直暇だ。

私も勉強しようかな。

鞄から数学の問題集を取り出してシャーペンを握る。

梗と話をしたおかげか、問題に集中するのにそう時間は掛からなかった。

5ページ程進んだ頃、


「春香」


突然名前を呼ばれて勢い良く顔を上げた。

周りを見渡すと誰もいない。


「梗なら先に行ったよ」


頭上から聞こえた声にゆっくりと顔を上げる。


「そう、なんだ」


数時間ぶりに聞く声。

いつも通りの声。


「僕達も早く行かないと。夕食に遅れる」

「うん」

「一緒に食べる約束でしょ」

「うん」

「ほら、早く片付けて」

「うん」

「ごめん」

「う、ん?」


え?


「ごめん、怒ったりして」

「……ううん、私もごめんなさい」

「春香の考えちゃんと分かってあげられなかった」


違うよ。

昴は悪くない。

自分の気持ち言えない私が悪いんだもん。