神木の下で会いましょう

「春ちゃんさ、なんかあった?」

「なんで?」

「昴君が不機嫌だから」


教科書に落としていた目線を上げる。

頬杖を付いて首を傾げる梗と目があった。

と、その奥にこちらを見る昴の姿。

目があった瞬間、直ぐに逸らされてしまったけど。


「昴君と喧嘩でもした?」

「してない」


……と思う、私は。


「可笑しいな。春ちゃんが原因のはずなのに」

「私とは限らないじゃん」

「いや、あの不機嫌さは絶対に春ちゃんが関わってる時のやつ」


真面目な顔して見つめてくる梗に、先程のことが見透かされそうな気がして、慌てて教科書へと目線を下げた。


「なにその自信」

「兄貴も同じこと言うと思うけどね」


そう聞こえた後、止まっていたシャーペンが流れるように動き出したのが見えた。

梗がどんな表情なのかは分からないけど、勉強モードに突入したのだと感じる。

迷い無くさらさらと動くシャーペンは、私に質問することなんて何もないと言ってるみたい。

質問されたところで上手く答えられるか分からない私には丁度いいのかも。

集中しなきゃいけないのに、頭の中の半分以上を支配しているのは昴のことだから。

そこまで考えてはっとして顔を上げた。