神木の下で会いましょう

家を出てから数歩。

神社へと繋がる石階段は案外急で。


「……キツっ」


登り始めてすぐにギブアップ。

普段ならそんなに感じないキツさも、今日は重量感のある荷物を背負っているからかすごく苦しい。

でも握られた手が力強く引っ張られる度に、キツイけどそのキツさも嬉しく感じた。

春の穏やかな陽気のように、ほくほくとした気分で最後の一段を登ると、数メートル先に赤い鳥居。

左手に春の家、右手の奥には町に言い伝えられている伝説に出てくる桜の木が存在している。

毎年この季節に満開の桜を枝いっぱいに飾って、まるでお母さんのような風格で、桜の木の周りは私達を暖かく迎えてくれるんだ。


「今年も綺麗に咲いたよ。でもーー」


春と手を繋いで右手へと進む。

毎日欠かさず木のお手入れをする春には咲き誇る花の変化が分かるらしい。


「今年が一番綺麗だ」


空いっぱいに広がる淡いピンク色。

風が吹く度にはらはらと舞い落ちる花びら。


「きれい」


それ以外の言葉が見つからなかった。

人は本当に綺麗な物を目にすると言葉が出なくなる、なんて近所のおじいちゃんが言ってたけど本当だ。

満開の桜は本当に美しい。

暖かくて、包み込むような雰囲気を醸し出す木に抱き付く。

ありがとう、と気持ちを込めて。