神木の下で会いましょう

ーー鹿条高校は鹿条町唯一の公立高校。

一学年3クラスで構成されている。

一クラスあたりの人数は約20名。

少人数制で全校生徒は162人という小さな高校。

通っているのは大半が町の人間で、幼稚園から一緒の子がたくさん。

先輩とか後輩なんて垣根はなく、近所のお兄ちゃんお姉ちゃんみたいな感じで和気藹々[わきあいあい]とした雰囲気で包まれている。

だからなのか意外と偏差値が高い。

きっと三学年合同夏季合宿のおかげかな。

今年は教える側にならないとね。


「春香、戻るよ」


なんて考えているうちに、長い長い校長の話は終わっていたらしい。

さっきまで壇上にいたはずの昴が目の前にいてちょっとびっくり。


「昴だ」

「昴だ、じゃないから。はあ、なんか目が合ったと思ったらやっぱりこれだ」


目が合ったのは気の所為ではなかったのね。

昴に手を引かれて椅子から立ち上がる。


「次ってなに?」

「本当に何も聞いてなかったんだね。最上級生になったから少しは変わるかもって考えてたのに」

「人はすぐには変わりません。でも、校長の話が短かったら変わるかも」

「もういいよ、春香らしいし。次は恒例の大掃除」


そういえば、新学期の始まりは大掃除だったっけ。


「ジャージに着替えたら中庭集合」


……ジャージ、ね。

私の荷物にジャージなんてものはあったかしら。

いや、うん。

忘れたよ、春のこと考えてて忘れた。


「何? 忘れたの?」


だから、そんな怖い目で見ないでよ。

忘れたことにかわりはないんだけどね。