冷たい彼の情愛。

 
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梅雨真っ盛りの、朝から雨模様の木曜日。

政治学科の1年生が必須とする憲法政策論という講義の中で、法学部共同講義が2週に渡って行われることになった。

法学部は私が属する政治学科以外にも学科があり、それは法学科だ。

いわゆる、法律の専門家を育成する学科で、多くの裁判官や検事、弁護士がこの法学科からも生まれている。

政治学科は偏差値的にも文学部と同じ感じだけど、法学科の学生はごく普通の成績の私とは比べ物にならないくらい高い偏差値を持つ人たちが集まる“エリート”と呼ばれる集団なんだ。

だから同じ学部とは言っても法学科の人たちはすごく遠い存在で、サークルや教養の講義で仲良くならない限り、普段は関わることはない。

ところが、1、2年次の教養課程では法学部共同の講義があり、数単位程度だけど法学科と政治学科で同じ講義を受けたり、ディスカッションなどを行ったりする。

1単位丸々講義を受ける必要があるものがほとんどだけど、今回のもその一部らしい。


「法学科か~。楽しみだなぁ~!」


共同講義が行われる教室に向かう途中、入学式の時に仲良くなった美紗子(みさこ)がそんなことを言い出した。

何で楽しみなのかがわからなくて、私は問い掛ける。


「え? 何で楽しみなの?」

「だって! あの“稲葉縁(いなばえにし)”がいるんだよー? 他にも何人かイケメンいるし。お近づきになれるかもしれないじゃない? たとえ近づけなくても目の保養ができるって素晴らしいもの!」

「いなば……?」

「咲世、稲葉くんのこと知らない?」

「え、うん……。同じ学科の人でさえ、名前と顔まだ一致してないし、法学科のことなんてわかんないよ」

「そうなの? 稲葉くんは一度顔見たら絶対に忘れないって保障するから! 超イケメンだし、背も高くてスタイルも良くて目立つし、バスケサークルでも1年なのにエースなんだって! 楽しみにしてて!」

「う、うん……」


得意げな美紗子の言葉に、私は頷くだけだ。

イケメンさんを見るのは確かに目の保養にはなるかもしれないけど講義を受けるだけだし、一目見て終わるんだろうとこの時の私はぼんやりと思っていた。