北野くんが首を傾げ、縁に問い掛ける。
「ん? どした、稲葉」
「悪いけどさ、それ、パスさせて」
「あれ、稲葉もメンツ入ってたっけ?」
「いや。俺じゃなくて、咲世。今日は俺と約束してるから」
「稲葉じゃなくて……“さよ”?」
「そう」
縁の発した言葉に、その場の時間が止まった気がした。
私だけではなく、周りもみんな。
……えっと……私、縁と約束なんてしてたっけ?
……って、あれ? 今の問題はそっちじゃ、ない……?
「“さよ”って……、花丘さんの名前だよね?」
「えっ……、う、うん……」
北野くんに尋ねられて、固まってしまった体を奮い立たせて私は何とか小さく頷いた。
……“さよ”は間違いなく、私の名前。
でも、何で“この場所”で縁が私の名前を呼んでるの?
あ、もしかして私以外に他に“さよ”さんが居るとか……?
“さよ”くんかもしれない。
「え? 何、どういうこと? 何で稲葉が花丘さんを呼び捨てにしてんの?」
「何でって、咲世は俺の彼女だし」
「……はぁ!? ふたり付き合ってんの!?」
「あぁ」
けろりと頷く縁をみんなはキョトンとした目で見ている。
隣に座っていた南さんがはっと我に返って、慌てたように縁の袖を引っ張った。

