冷たい彼の情愛。

 
不安に襲われた時。


「……ぶはっ! ウソウソ。冗談だよ」

「じょ、冗談っ?」

「うん。ちゃんと、かわいい鼻は無事だから安心して?」

「ひ、ひどいっ! びっくりしちゃったじゃないですか……っ」

「ごめんごめん」

「もうっ……」


あまりの冗談に私はほとんど知らない人相手だというのに、つい頬をぷぅと膨らませてしまう。

すると、彼は悪気なんてものは全く見せずに、ただ可笑しそうに笑い始めた。


「くくくっ、そんなに慌てなくても簡単に曲がったりしないって」

「だ、だって……ふふ。ふふふっ」


彼が可笑しそうに笑っているのにつられて、私もつい笑い出してしまっていた。

しんとした空間に私たちの笑い声だけが響く。


「またぶつかっちゃって、ごめんね? 鼻も痛かったよね、ごめん。ちゃんと前見てたつもりだったんだけど、ぼーっとしちゃってたのかも」

「いえ、私こそごめんなさい」


顔を合わせてくすくすと笑い合った時だった。

書庫のどこかから「ごほん!」という咳払いが聞こえてきて、私たちふたりは咄嗟に自分の口を手で押さえた。