それ以上は何も言えずに縁を見つめていると、縁は諦めたように息をつき、私を掴んでいた手の力を抜いた。
それとともに縁のぬくもりが私から消え、私の頬を涙が伝う。
「……咲世の気持ちはよくわかったよ。少し、時間もらえる? 考えるから、これからのこと」
「……」
私の目に映る縁は、今まで一度も見たことのない、悲しげな表情だった。
私の望み通り、縁の幸せを考えてくれるって言ってくれてるのに、どうしてこんなに胸が痛いの?
どうしてこんなに苦しいの?
自分勝手すぎる自分の心に嫌気がさす。
「咲世」
「……」
「辛いこと言わせたよな、ごめん。……今日は帰るよ」
「っ」
悲しげな笑顔が私の心に突き刺さった。
縁が謝ることなんてないのに……。
縁には大切な人と幸せになる権利があるんだから。
縁は私に触れることはなく立ち上がり、「じゃあね」と私に背中を向けて玄関に向かい始める。
いつもだったら見送るけど……私の体は動いてくれなかった。
パタンとドアが閉まる音だけが部屋に響き、それと同時に、膝の上でぐっと握り締めていた拳に涙がぽたりと落ちた。

