冷たい彼の情愛。

 
私はそっと縁の胸を押して離れる。


「……ほんとに、それでいいの? 私はただ、縁が一緒にいて心から幸せだと思える人が誰なのかを、責任とか抜きにして素直に考えてほしいだけなの」

「考えなくても答えはもう出てるよ。俺の幸せは咲世と居ることだよ。俺の言葉、そんなに信じられない?」

「……信じたいから、逃げないで正直でいてほしい。後悔を残してたら、後できっと縁はその狭間で苦しむ。私、縁の負担になりたくないし、何よりも縁が苦しむのは嫌。責任感だけで一緒にいるなんて虚しいだけ。本当は縁は私といるよりも元カノといた方が幸せ」

「咲世っ!」

「っ!」


頭に浮かんだ言葉をそのまま溢れさせていた私を止めるように、縁は張り上げるような声で私の名前を呼び、腕をぐっと掴んだ。


「本気でそんなこと、思ってるの?」


縁の苦しそうな表情の中には怒りがあって……はじめて見る表情からは縁の怒りがビリビリと伝わってくる。

……思いたくないよ。でも、思ってしまうの……。


「だって、元カノは同じ大学に通ってるわけじゃないんだよね……? それなら前みたいに標的になることもない。縁がしてた後悔だって全部解消される。……ふたりで堂々と外を歩けるんだよ? 何の我慢もしなくていいなんて、すごく幸せなことだよ……」


私の心の中で一番引っ掛かっていたことだった。

縁がずっと後悔として抱えてきたものは、彼女とよりを戻すことで全部解消される。

……縁は幸せになれる。

でも、私は縁を幸せにできない。

同じ大学にいる私といれば我慢は多くなるし、後悔だって続いていくんだから。

その裏で、結局私は縁と付き合ってることを周りに秘密にされることが悲しくて寂しかったんだ。

お互いにそんな想いを抱えながら付き合っていくなんて辛いよ……。

それなら離れた方がよっぽどいい。