冷たい彼の情愛。

 
部屋に入った途端目に入ってきたのは、私がさっきまで抱き締めていた猫のぬいぐるみをあぐらの上に置き、ぽふんぽふんと軽く叩きながらぼんやりとしている縁の姿。

何を考えてるの?と思ったけどそれ以上考えるのはやめて、そっと近付いてローテーブルにカップを置くと、縁ははっと顔を上げ、「ありがとう」と笑いかけてくれた。

私はローテーブルを挟んで縁と向かい合う位置に腰を下ろす。

コーヒーをすすった縁から「おいしい」とほっとしたような声が零れた。


「……ね、咲世」

「……うん」

「こっち、来て?」

「……うん」


呼ばれるまま、私は縁の隣にちょこんと座る。

すると隣から縁の腕が伸びてきて、私の体をぎゅっと抱き締めてきた。


「咲世、大好き」

「……」


やさしく微笑んだ縁の顔が私の顔を覗き込むようにして、顔を近付けてくる。

お互いの唇があと5センチで触れるという瞬間、私は無意識に縁から顔を背けていた。


「……咲世?」

「……あ、ご、ごめん……っ」


縁のキスを拒んだのは初めてだった。

そして、「大好き」と言ってくれた縁の言葉までも、私は疑ってしまっていた。

縁は私のことを好きだと真っ直ぐ伝えてくれる。

いつもならすごく嬉しくて幸せな気持ちになるのに、今はそう思えなかった。