冷たい彼の情愛。

 
「……縁?」


女の子の声で弱々しく、よく知った名前が発された。

それは、私が毎日のように呼んでいる名前。

……え?

反射的に声の方を振り向くと、胸の前で両手をきゅっと握りしめたかわいい女の子がゆっくりと通り過ぎるところだった。


「……芽衣(めい)?」


驚いたように縁の声が呼んだのは、きっと、今の女の子の名前。


「何で、ここに……」

「……あ、あの……突然ごめんね? ……どうしても……縁に会いたくて」

「……」


困惑したような縁の問い掛けに、その女の子は少し震えたような声で答えた。

その場に、沈黙が佇む。

……え、何? 今の会話、どういうこと……?

縁が名前で呼ぶ女の子……縁を名前で呼ぶ女の子……その子は、誰……?

疑問が浮かんだ瞬間、男の子の声が沈黙を破った。


「あー、俺ら先に帰るな。じゃあな、稲葉」

「……あ、悪い」


申し訳なさそうな縁の言葉とともに縁の友達が去っていき、そこには縁と女の子のふたりが残されたようだった。

とは言っても、周りにはきっとサークル活動をしている人たちや講義が終わった人たちがまだ残っているはず。

縁のことだから、人がいればきっと注目されているだろう。

それに『彼女』がいないはずの縁が、いつも一緒にいる女の子たちとは違う女の子と一緒にいれば、どんな関係なのかと興味を持つはず……。

っていうか……え、待って……お互いに名前を呼び合うってことは、そういう、こと?

もしかして、その子、縁の元カノ……?