冷たい彼の情愛。

 
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今日も、彼とは目が合わない。

……というか、目が合わないように私が縁のことを見ないようにしてるから、合うわけもないのだけれど。

学祭の日の夜に縁の想いを知ってから、私はそれまで以上に周りに悟られないように気を付けるようになった。

縁の負担になりたくないし、責任を感じさせたくない。

私はただ、縁のそばに居られればいい。

そんな想いだけ。


ほんの数分前に法学部の共同講義が終わり、講義室の中は緊張感から解放された空気に包まれていた。

その中にはもちろん縁もいて、男の子数人と南さんを含む女の子数人がグループになって楽しそうに話している。

何やらみんなでタブレットの画面を覗き込みながらクスクスと笑っていて、縁の隣には南さんが寄り添う。

そんな光景がチラチラと視界の片隅に映ることに気付かないふりをして、私はバッグの中にテキストやノートを仕舞っていた。


「咲世、お疲れ~」


背後から声が飛んできて振り返ると、美紗子がいた。


「あ、お疲れさま。美紗子」

「この後ってフリーだよね? もし予定ないなら買い物行かない? 真由はこれからバイトで行けないみたいなんだけど」

「買い物? うん、行きたい! そろそろアウターが欲しいと思ってたところだったの」

「じゃあ決まりね!」


解放感たっぷりの笑顔を浮かべた美紗子がパンっと手を合わせる。