冷たい彼の情愛。

 
「咲ー世」

「え? きゃ……っ」


縁がベッドの端に座り、その長い腕と広い胸が私の体をすっぽりと包み込んだ。


「あー、3日ぶりにやっと触れる。咲世だ」

「……うん」


お互いにバイトがあったり、縁はサークルの集まりがあったりで、ここ数日会えてなくて。

そのこともあって、不安な気持ちが変に大きくなってしまったのかもしれない。

縁のにおいとぬくもりにほっと落ち着く。

もっと甘えたいなと縁の背中に手を回そうとした時、縁にそっと体を離された。


「そうだ。今日大丈夫だった? 転びそうになってたよね」

「……あ、うん。大丈夫だよ」

「ほんとに? 足捻ったりしてない?」

「本当に大丈夫だから、心配しないで? ありがとう」


心配させちゃったことは悪いなと思うけど、縁の中に私が存在していないみたいと感じたのは杞憂だったんだとほっとして、自然と笑みが零れる。

「じゃあ、他には?」

「え?」

「さっきの電話。声が元気ない気がしてさ。時間も遅いし悪いかなと思ったんだけど、どうしても気になって咲世に会いにきたんだ。何かあったんじゃない?」


じっと私の様子を窺うように、縁が顔を覗き込んでくる。

自分ではいつも通りに話してたつもりだったのに、まさか気付かれてたなんて……。

電話越しだったにも関わらず、小さな変化に気付いてもらえたことはすごく嬉しい。

……でも、これは私の気持ちの持ち方の問題だ。縁には言えない。

私は口元に笑みを浮かべ、首を横に振った。


「ううん、何もないよ。たぶん眠かっただけだと思う。心配させちゃってごめんね?」

「……そう? ならいいんだけどさ」


縁は納得したように頷いてくれたけど、「でも」と付け足す。


「俺に心配かけたくないから言わない、とか思うのはダメだからね? ちゃんと思ってることは俺に言って」

「……うん。ありがとう、縁」


ぽんぽんと頭を撫でられ、縁の優しさと笑顔が心に染みた。