冷たい彼の情愛。

 
誰もが理想とするような光景を見つめながらモヤモヤした気持ちが顔を出しそうになってしまった時。


「お目当ての試合も終わったし、他も回ろっか~。お腹すいちゃった!」

「そうね。あっちに露店あったから、行ってみようか」

「うん!」


真由と美紗子がそんな会話をして歩き出したので、あの光景から解放されるとホッとしながら、私はその後ろを追う。

縁に見つからないようにとコートから顔を背けて歩いていたせいで足元を見れていなかった私は、そこにあった小さな段差に躓いてしまった。


「きゃっ」

「わっ、咲世っ!」


すぐ横にいた真由の腕に咄嗟に掴まってしまうと、真由は私の腕をガシッと掴んでくれ、私は何とか転ばずに済んだ。


「やだ、咲世、大丈夫~?」

「う、うん、大丈夫。ごめんね、躓いちゃ……、っ!」


申し訳なさを抱えたまま顔を上げて真由に笑いかけた時、ちょうど近くを通りかかった縁と目が合った。

気付かないうちに縁との距離が縮まってしまっていたらしい。

縁の表情は強張っているように見えたけど、気のせいだったのか、縁は何事もなかったかのように私からすぐに目をそらした。