冷たい彼の情愛。

 
そんな中、美紗子が目線の先の人物を目で追いかけながら、ぽつりと言葉を溢す。


「ね、ふたりは知ってる? 稲葉くんの彼女のこと」

「!」

「え、稲葉くんって彼女いないんじゃなかったっけ?」


美紗子の言葉につい息をのんでしまった私に対して、真由は美紗子に疑問を投げ掛けた。

ど、どうして突然縁の彼女の話になるの……?

まさかバレたわけじゃない、よね……?

ヒヤリとした汗が背中を流れ、焦りと不安に駆られて心臓がどくどくと音をたてる。


「あ、もしかして、ついに南さんとくっついちゃったとか?」

「ううん、そうじゃなくて、高校の時の彼女の話! ちょっと聞いたんだけどね、1年生の時から1年弱くらい付き合ってた子がいたらしいの。すごくかわいい子だったみたい」


美紗子が得意気に話を続ける。

高校の時の話ってことは、私たちのことがバレたわけじゃないんだ……良かった……。

縁の彼女の話で南さんの名前が出てくることに複雑さを感じてしまったけど、自分のことがバレてなくてホッとした私は、こっそり胸を撫で下ろした。

縁が高校の頃に付き合っていた子がいたことは、ちらっとだけ聞いている。

縁に告白された時に私が「男の人と付き合ったことがない」と伝えていたからか、付き合い始めてからすぐの頃、「女の子と付き合うのは初めてじゃない」と少し言い辛そうに縁が教えてくれたんだ。

でも詳しく聞いていいのかもわからなかったし、知らない方がきっと幸せだと思って、それ以上聞くことはしなかった。

たとえ昔、縁が付き合っていた彼女がいたとしても、今は私のことを好きでいてくれてるんだと信じていたから。

そのまま元カノの詳しいことは知らないまま過ごしていくんだろうと思っていたけど、縁のいないところで具体的な話を聞いてしまうことになるなんて。

正直、縁の口以外から縁の過去のことは聞きたくないし、元カノの話を平然と聞けるほど、私の心は広くない。

……そうは思っても、この場所から抜け出す方法は思い付かなかった。